三鷹で有意義な時間

 先日、太宰治文学サロンへ行ってきた。帰り道はすっかり太宰に感化され、ポケットに両手を突っ込み、背中を丸め何か思い詰めたような険しい表情でアスファルトに目を落として歩いた。長らくつなかわ事務所のブログを読んでくださっている方ならもうお気づきだろう。そう、かつて漱石山房記念館を訪れ、すっかり明治の文豪にかぶれたアノ筆者である。今回もかぶれ発動である。大学生の頃だったと思う。太宰治の作品や芥川龍之介の作品(主に後期の作品)を立て続けに読んだら気分がどんよりしてしまい、親が心配したことがある。とにかく感化されやすいのだ。

 さて、このサロンの訪問だが、今回も非常に充実していた。太宰治文学サロンは漱石山房記念館と比べるとかなり小ぢんまりとしているが、この小さな空間に所狭しと魅力が詰め込まれていた。常駐しているガイドボランティアの方が、サロン内にある書籍の説明をしてくれたのだが、その中で興味を引いたのが和紙に筆で書かれ紐で綴じられた太宰の作品である。サロンでオリジナルに製本されたものだが、自由に手に取って読むことができる。そこでコーヒーを飲みながら筆で書かれた一冊を楽しんだ。うっかりコーヒーをこぼさないよう気を付けつつ、ゆったりと太宰の作品に浸る時間はなんとも贅沢であった。また、ボランティアの方は太宰の生涯について、たくさんの知識を持っており何を訊いても詳しく答えてくれた。しかもあがり時間(午後四時半)をすっかり過ぎているというのに惜し気もなく丁寧に説明を続けてくれた。この説明がまた非常に興味深く、つい聞き入ってしまった。こちらの勉強不足で期待外れなリアクションとなっていたかもしれないと思うと申し訳なさも感ぜられた。一体どんな話を聞かせて貰ったのか気になる方は是非サロンへ足を運んでいただきたい。

 どっぷりと太宰の作品と生涯に触れサロンを後にしたので、影響されやすい筆者は破滅的思考な主人公となってしまった。そして冒頭へと戻る。ところがこの日の最高気温は24℃。ポケットに突っ込んだ両手は汗ばむので空気に晒し、上着も暑くて脱いだ。すると太宰気分が薄れ、今演じていた破滅的主人公が恥ずかしくなってきた。道行く人は誰も見ていない、気にも留めていないのだが、ものすごく言い訳をしたくなった。そして

 恥の多い生涯を送ってきました。

安易にこの一文が頭に思い浮かんだ事さえも恥ずかしくなった。そうだ、ドーナツを買おう。令和のポップなスイーツを買って、この恥ずかしい時間を無かったことにしたい。「ドーナツ、ウェーイ!カロリーお化けー!」と最初からずっとこのテンションだったのだと自分に言い聞かせるように心のうちでおどけてクリームやチョコレートがたっぷりとデコレーションされた陽気なドーナツを三つ買って帰った。

三鷹市 |太宰治文学サロン

太宰治文学サロン | 公益財団法人 三鷹市スポーツと文化財団