最高気温23.1度であった
フェスへ行った。チケットの当選が分かった日以来、当日をまだかまだかと楽しみにしていた。更にはお目当てのアーティストの出演時には前方席で観ることのできるチケットにも当選した。楽しみ以外ない。
早朝の電車の中、はしゃぐ気持ちを抑え行儀よく目的地まで乗車した。しかし会場にはすでに気分の高揚した若者たちで溢れていた。入場ゲートを過ぎれば己の興奮を解放し今日一日を楽しむという強い決意と熱気で満たされていた。最初のアーティストのパフォーマンスが始まるまでまだ時間はある。しかし若者たちは忙しい。フェスグッズやアーティストグッズを身に着けお揃いのコーディネートで写真を撮る。互いの頬を寄せ合い反対の頬に手を添え、目を閉じうっとりした顔で微笑みを浮かべれば映えの完成である。これだけではない。後ろ姿である。被写体である自分達はフレームの左はじに収まり、カメラに背を向けこぶしを空に突き上げるというこの構図、映えである。そんな光景はそこかしこに見られた。ごく普通のことらしい。今の時代の中心を生きている人たちは写真を撮ることも、撮られることにも慣れていて、非常に感心した。私は牛タン串800円をかじった。設置されている飲食スペースの席につき、テーブルを見つめながら灰色の肉を胃に詰め込んだ。お目当てのアーティストのパフォーマンス前に腹ごしらえである。よし準備は整った。前述した通り、私は前方席での観覧に当選している。私に附された席の番号を探し、たどり着いたその場所は想像していたよりもはるかに前方、そしてステージ真ん中である。
「え?え?うそでしょ?ホントに??ヤバイ、どうしよう」と歓喜の独り言が止まらない。そして何故だかその場をくるくると回り目を閉じ祈った。
彼らの出演時間は体感にして五分。一瞬の出来事のようだった。この一瞬と感じた時間が一日二十四時間全てを充実した時間にしてくれる。なんて素晴らしい一瞬だろう。さあ帰ろう。フェスはまだ続くがあとは若者たちでよろしくやっておくれ。残りの時間も楽しんで。と大人の余裕を漂わせたつもりで会場を後にした。―正直、もう疲れてしまったのであるー
帰りの電車に乗るや否や、耳にイヤホンをかけ、音楽を再生する。先ほどの夢の時間のおさらいである。片手を頬に当て、目を閉じ、今日楽しかったあの時間を思い返しうっとり微笑む。まさかの映えポーズに気づき少し恥ずかしさがこみ上げたが、それも束の間、しばらくすると電車の振動が心地よくうとうとしてきた。どうやら隣に座るご婦人の肩に反対の頬を寄せていたらしく押し返された。同時に私の夢の時間も現実へと押し戻された。